東京地方裁判所 昭和27年(行)64号 判決 1960年2月18日
原告 奥田勇一 外五名
被告 東京国税局長・杉並税務署長
主文
一、被告東京国税局長が原告奥田勇一に対し昭和二七年二月一八日になした同原告の昭和二五年分の所得税の所得金額を金三七五、一〇〇円と訂正した処分のうち金三一二、七四七円を超過する部分はこれを取消す。
二、原告奥田勇一のその余の請求はこれを棄却する。
三、被告東京国税局長が原告森元正一に対し昭和二七年四月一五日になした同原告の昭和二五年分の所得税の所得金額を金二〇三、六〇〇円と訂正した処分のうち金一一五、一三〇円を超過する部分はこれを取消すす。
四、原告森元正一のその余の請求はこれを棄却する。
五、被告杉並税務署長が原告角田伝次郎に対し昭和二六年四月三〇日になした同原告の昭和二五年分の所得税の所得金額を金三四〇、〇〇〇円と更正した処分のうち金二五五、五四七円を超過する部分はこれを取消す。
六、原告角田伝次郎のその余の請求はこれを棄却する。
七、原告赤川徳三郎、同高島正次郎、同根来重義の各請求をいつれもこれを棄却する。
八、訴訟費用中
(1) 原告は奥田勇一と被告東京国税局長との間に生じた分はこれを八分し、その二を同原告の負担とし、その余を同被告の負担とし、
(2) 原告森元正一と被告東京国税局長との間に生じた分は全部同被告の負担とし、
(3) 原告角田伝次郎と被告杉並税務署長との間に生じた分はこれを三分し、その一を同原告の負担とし、その余を同被告の負担とし、
(4) 原告赤川徳三郎と被告杉並税務署長との間に生じた分は同原告の、原告高島正次郎と同被告との間に生じた分は同原告の、原告根来重義と同被告との間に生じた分は同原告の各負担とする。
事実
第一、請求の趣旨
一、被告杉並税務署長(以下単に被告という)が昭和二六年四月三〇日原告根来重義(以下単に原告という)の昭和二五年分所得税に関し、総所得金額を金二五〇、〇〇〇円と更正した決定のうち、金一六八、〇〇〇円を超過する部分はこれを取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
第二、請求原因
一、原告は、昭和二五年分所得税について被告に対し総所得金額を金一六八、〇〇〇円として確定申告したところ、被告は請求の趣旨記載の通りの更正決定をした。よつて、原告は所定の手続を経て東京国税局長に審査の請求をしたが、この審査請求は棄却された。
二、しかしながら、原告の同年中における所得は、右申告額通りであるから、被告の右決定中右申告額を超える部分は違法であつて取消されるべきである。
第三、被告の申立、答弁及び主張
一、請求棄却の判決を求める。
二、請求原因第一項記載の事実は認め、同第二項記載の事実は争う。
三、原告は食料品販売業で、国電中央線高円寺駅北口正面道路に面するマーケツト内に店舖を設け、商況は活発である。原告の帳簿は記載漏が多く信用することができなかつたから、被告が左記方法により調査した結果、同年中の所得は金二七〇、〇〇〇円と認められるから、本件決定は違法でない。
(1) 原告の売上金額は店舖の状況等からして、他の同業者と比較して著しく低きに失するとは認められず、又、原告の申立により一日平均売上金額を計算すると金四、九六五円となる。更に、調査官が実際に原告店頭で午後四時以前の売上金額を調査したところ、金一、五〇〇円であつたが、原告の申立によると、午後四時から同六時までの売上が一日の総売上の約七割を占めるとのことであつたから、一日の売上が五、〇〇〇円以上であることは明らかであるから、一日の平均売上額を金五、〇〇〇円と認めた。年間稼働日数は原告申立により三六〇日と認められたから、年間売上総額は金一、八〇〇、〇〇〇円となる。
(2) 右売上総額に、被告の調査にかかる食料品店の所得標準率一五%を適用すると、原告の所得は二七〇、〇〇〇円と認められる。
四、更に、同年中の原告の資産増減調査の結果によつても左記の通り金二四九、二九七円の増加があり、これに相当する所得があつたというべきである。
(1) 増加資産 二五一、六五九円
(イ) 生活費 一七七、四二〇円
原告の家族五人、昭和二五年中の東京都における一人一ケ月の生活費は金二、九五七円(総理府統計局の統計による)
(ロ) 月掛金 三三、〇〇〇円
(ハ) 地代 三、七五〇円(家事負担分)
(ニ) 公租公課 一五、八三三円
(ホ) 自転車購入 三、〇〇〇円(新車と交換差額)
(ヘ) 商品増加 一六、五五六円(期首一五、〇〇〇円期末三一、四五六円)
(ト) 火災保険料 二、一〇〇円
(2) 資産減少 二、三六二円(建物評価減)
(3) 差引増加 二四九、二九七円
第四、右被告主張事実に対する原告の主張
一、原告が被告主張の場所で食料品販売をしていること、一日の平均売上が金四、九六五円であること、稼働日数、月掛金、公租公課、自転車購入費、期末在庫、火災保険料の各支払額、建物評価減の価格がいづれも被告主張の通りであることは認めるが、その余の被告主張事実は否認する。
二、原告は昭和二四年一一月にこの場所に開店したので、同二五年は実質上食料品販売経営の最初の年にあたつていた。そのため原告は、店の信用を増し、顧客を確保するためには、他の業者よりも廉価に利益を考慮しないで商品の売込みに専念していた。
従つて、他の長期間同種の営業を続け、既に顧客が定つている店舖を基準とした所得標準率によつて原告の所得を推計することは実情にそわないものである。
三、同年中における原告の収支計算は左の通りであり、所得額は金一五八、四八〇円である。
(1) 年間荒利益 二八二、二四〇円
一日平均売上額金四、九六七円、同荒利益率一六、九%、同荒利益金七八四円、及び稼働日数三六〇日により算出。
(2) 必要経費 一二三、七六〇円
(3) 差引所得 一五八、四八〇円
四、又、資産増減により計算しても、年間生活費金一四四、八六四円(原告の家族四人で、一人一ケ月生活費を被告主張の通りとする)、地代金七二〇円、商品増加金六、五五〇円(期首在庫金二五、〇〇〇円、期末在庫は被告主張通り)、減少資産は被告主張の建物評価減の外に問屋に対する買掛未払金三五、〇〇〇円であり、その他は被告主張の通りであるから、差引資産増加は金一六八、七一一円である。
第五、証拠関係<省略>
理由
一、昭和二五年分の原告の所得税について、原告のなした確定申告、被告のなした更正決定は請求原因第一項記載の通りであること及び原告の職業、店舖の場所が被告主張の通りであることは当事者間に争いないところである。
証人浅利重雄の証言によると、原告はその収支計算を明らかにする帳簿を備えていなかつたことが認められるから、このような場合においては、推計によつてその所得を認定することも止むを得ないところである。よつて、以下被告主張の推計の当否を考える。
二、右浅利証人の証言及び同証人の証言により真正に成立したと認められる乙(根)第一ないし第三号証によると、原告の昭和二六年と同二五年の営業の状態は類似したものであること、浅利証人が調査官として昭和二六年一一月原告店舖に所得税調査に趣いた際、午後一時四五頃から、同三時二〇分頃迄の間売上金額を調査したところ、右時間中の売上金額は金一、五〇〇円であつたこと、原告の一日の売上は、午後四時から、同六時に至る間に一日の約七割を売上げること、原告店舖の商況は活発であつたことを認めることができる。右認定事実によるならば、一日の平均売上総額は金五、〇〇〇円(一、五〇〇円を〇、三で除した数)と認められ、これに当事者間に争いない稼働日数三六〇日を乗ずると、昭和二六年における年間売上額は金一、八〇〇、〇〇〇円となり、前認定の事実によると昭和二五年の売上額もこれと同等と認めることは、不合理なものでない。そうして、この売上額に成立に争いない乙(根)第六、第七号証により認められる食料品店の所得標準率一五%を適用し、原告の所得額を金二七〇、〇〇〇円と推計することも不合理なものということはできない。
三、原告は、昭和二五年に創業間もない頃であつたから、他の同業者と比較して原告の利益率は低かつたと主張するが、これを認めるべき証拠もなく、その他右認定を覆すに足る証拠もない。
そうすると、その余の点については判断するまでもなく、原告の同年中の所得は金二五〇、〇〇〇円以上であると認められるから、被告のなした本件決定は違法なものでなく、原告の請求は理由ないものである。
(結論)
以上各原告について説明したように、原告奥田については、被告東京国税局長の本件処分中所得金額金三一二、七四七円を超過して認定してなした分の取消を求める限度においてその請求を認容し、その余は理由がないから棄却し、原告森元については、同被告の本件処分中所得金額金一一五、一三〇円を超過して認定してなした分の取消を求める限度においてその請求を認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告角田については、被告杉並税務署長の本件処分中所得金額金二五五、五四七円を超過して認定してなした分の取消を求める限度においてその請求を認容し、その余は理由がないから棄却し、原告赤川、同高島、同根来の請求はいづれもその理由がないから棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)